株式会社レコチョク UXデザイナーの山里です。
今回は、自身が担当しているインディーズアーティスト向け配信サービスEggs Passのサービス改善として行われたUXリサーチの活動についてご紹介いたします。
題材となる Eggs Pass はアーティストの「楽曲配信」「著作権管理」「ライブイベント」など、活動のトータルサポートを提供するサービスです。
経緯
Eggs Passの「楽曲配信」「著作権管理」では、アーティストから申請してもらう情報に不備や誤記があるケースが一定数発生します。
申請の不備により、再申請をお願いすることはアーティストの手間をかけてしまうことはもちろん、お問い合わせの確認が発生するなど運用にも影響を及ぼしていました。
今回の取り組みでは、不備や誤入力が原因の「再申請」ケースを減らし、アーティストの「配信をしたい」「著作権管理をしたい」をスムーズに実現することが求められています。
どのように進めたか
1. 調査目的/目標の把握
まずは今回の取り組みでどのようなことを明らかにしたいかを決めます。
この時点で、サービスの課題が不明確だったり、明らかにしたいことが決まっていないと、調査が抽象的かつ膨大になってしまいます。
結果を改善に活かしていきたいのであれば、まず目的を明確にしてから調査を実施しましょう。
■調査の目的
Eggs Passの「著作権申請」フローのユーザビリティ課題を把握
■調査で明らかにしたいこと
- どのような問題により、不備や誤記入、その他適切ではない操作が行われるか
- 申請未完となるような申請フローとして問題点があれば把握をしたい
2. 調査設計
ここではどのように調査を行うかを決めます。
本来であれば、どのように解釈をしたかアーティストに直接ヒアリングが行えると良いのですが、
- 再申請を促すケースでのヒアリングは申請者視点で良い体験とは言えない
- 第3者に向けたユーザビリティテストでは被験者が実際とは異なるテスト用の操作を行い、問題点を出しきれなかった
このことから、これまでのUXリサーチの実績を活用した内製での「ヒューリスティック評価」による課題の洗い出しを行うこととしました。
また、専門家として、社内QAチームのスペシャリストである清崎さんに協力をしてもらえることとなりました。
■評価手法
「インスペクション法による10ヒューリスティクスを活用したユーザビリティ評価」
- 「インスペクション法」とは
- “専門家が”評価をする手法のことを指す
- 「10ヒューリスティクス」とは
- 1994年にヤコブ・ニールセンによって提唱された、”経験則”に基づいたユーザビリティの10の原則集
■調査手順
- 「楽曲配信」「著作権管理」の申請タスクにおいて、どのような問題があるかを洗い出す
- 問題が「10ヒューリスティクス」のどこに該当するか示す
このような流れで問題の洗い出しと取りまとめを進行しました。
問題そのものの解決のみならず、設計における、ユーザビリティとして欠けている傾向が見えてくることを狙いとしています。
3. 実査
実践フェーズとなります。
問題がどのヒューリスティック評価項目に該当するかを記入
画面名/評価項目/(画面内の)セクションを用意し、今後データとして収集できることを意図してまとめました。
画面へのマッピング
問題箇所がどの画面、どのパーツに集中しているかを可視化しました。
課題ごとの優先度整理(インパクト分析)
重要度と修正しやすさを並べ、着手すべき優先度を提示した
やってみてわかったこと
検出過多になる
- 80件ほど出しすぎてしまった
- 画面数からすれば妥当かもしれないが、重要度の粒度も異なる問題をとにかく洗い出す形になった
評価者自身の主観をどうコントロールするかが難しい
- 今回はEggs Passに普段関わっていない評価者だったため、想定する利用者像に近い形で実施できた
- IT/音楽業界での経験が長いため、例えば専門用語のわかるわからないなどの判断が難しかった
- ユーザテストとの掛け合わせで補完したり、複数の評価者による実施が必要だと感じた
課題としてチームへ周知することのハードルはやや高い
- これまで行っていたユーザビリティテストでの被験者フィードバックと異なり、一意見としての受け取り方がされてしまう
- 「実ユーザが困っている映像・音声」と比べると、温度感が伝わりにくく、ユーザテストのインパクトを改めて理解した
他サービスでも評価項目の流用できる可能性を感じた
- 今回、流用の可能性を探るための検証としても実施をしたが、手応えがあった
- 会社全体のユーザビリティ評価項目として今後も活用できそう
- 課題発見に関わらず、新機能追加や機能改善などでのテスト的な位置付けでも実施ができると思えた
当初の仮説とは異なる観点が出た
当初課題として上がっていた3項目については概ね指摘ポイントと変化なかったため、仮説を客観的に評価することができた
- 不適切な情報の配置
- 複雑なインターフェース
- わかりずらい説明や専門用語
また仮説以外にも、画面をまたいだ情報設計はチームでも認識できていなかったため、評価によって発見することができました
このように実際やってみると様々なことが出てきました
これまで社内ではユーザインタビュー/ユーザビリティテストが手法の中心となっていたため、期間とコストがかかるものとして認識されていたため、
社内に知見が蓄積してきたこのタイミングでクイックな内製での評価を実施できたことは、UX向上の取り組みとしてとても有用なものとなりました。
今後に向けて
社内でUXリサーチの取り組みを開始して1年半
今回のヒューリスティック調査を社内のスタンダードな手法の一つとして定着させ、UX向上の取り組み = コストや期間がかかるもの という考えを払拭し、浸透させられるような環境を作っていきます。
今後は社外に対してのコミュニケーションも強化していきたいので、取り組みが気になる方がいましたら
山里宛て(keiichiro.yamasato@recochoku.co.jp)に連絡をいただければ対応をさせていただきます。
※SNSでも構いません
この記事を書いた人
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1993年東京生まれ / 2016年入社
UI Design / UX Researcher
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