アンケート作成のコツ ~質問文編~

データ分析

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言葉のチョイスの重要性

アンケートを作る上で、言葉のチョイスはアンケート結果を大きく左右する要因の一つになります。

言葉のチョイスの違いによる影響を調べた心理学で有名な研究があります。(作り替えられていく記憶)
※もともと英語の論文なので日本語訳するのはちょっと大変だなと思っていたところ、適当な日本語での説明を見つけたので、それを引用します。

ロフタスとパーマー(Loftus & Palmer, 1974)は、こんな研究をしました。
まず、被験者に自動車事故の映像を見せます。その後で、事故について質問します。事故を起こしたときの車のスピードについて、ある被験者は『車が激突したとき、どのくらいのスピードで走っていましたか』と訊ねられ、別の被験者は『車がぶつかったとき、どのくらいのスピードで走っていましたか』と訊かれました。このとき、『車が激突したとき――』と質問された被験者は、『車がぶつかったとき――』と質問された人たちよりも、よりスピードが出ていた、と回答したのです。
ロフタスたちは、質問の仕方によって被験者の記憶が変容してしまうのではないか、と考えました。そこで、一週間後に再び同じ被験者を集めて、今度は映像を見せずに事故について質問しました。
『ガラスが割れるのを見ましたか』という質問について、『車がぶつかったとき――』という表現で質問された被験者51名のうち、『割れるのを見た』と回答したのは7名。それに対して、『車が激突したとき――』と質問された被験者50名のうち、『見た』と答えたのは16名いました。
しかし、映像の中では、ガラスは1枚も割れていませんでした。それなのに、『激突した』という表現が、よりひどい事故であったかのように記憶を変えてしまったのです。
この結果から、ロフタスたちは、事故そのものの記憶と、後から補充された外部情報――今の例で言えば、『激突』という表現――が、時間が経つにつれて統合され、互いに区別できなくなる、と主張しました。

まとめると、以下の2つの結果になります。

  1. 自動車事故の映像をみせた後、「車が激突した時、どのくらいのスピードで走っていましたか」と質問したグループは、「車がぶつかった時、どのくらいのスピードで走っていましたか」と質問したグループよりも早いスピードを出して走っていたと答えた。
  2. 1.の実験の一週間後に再び被験者を集め、「ガラスが割れるのを見ましたか」と質問すると、ガラスが割れていないにも関わらず、一週間前に「車が激突した時、どのくらいのスピードで走っていましたか」と質問したグループの方がガラスが割れているのをみたという人が多かった。

つまり、「激突」と「ぶつかる」という二つのニュアンスの異なる言葉で、人々の感じ方のみならず、記憶までもが変容してしまう可能性があるということです。

私はこの研究を知った時、とても衝撃を受けたのですが、皆さんはいかがだったでしょうか。
言葉のチョイスがかなり影響があることがわかっていただけたのではないでしょうか。

さて、言葉のチョイスの重要度がわかっていただけたところで、アンケートを作る上での注意点をご紹介したいと思います。

質問の意図をはっきりさせよう。

パーソナルな質問、インパーソナルな質問

回答者自身に関わる行動や意見を聞く質問をパーソナルな質問、世の中一般の客観的な行動や意見を聞く質問をインパーソナルな質問と言います。 例をあげると以下のようなものになります。

Q. あなたは毎朝朝食を食べていますか?

これは回答者自身に関わる行動や意見を聞いているので、パーソナルな質問になります。

Q. あなたは毎朝朝食を食べるべきだと思いますか?

これは世の中一般の客観的な行動や意見を聞いているので、インパーソナルな質問になります。

また、主語をきちんと書かないと、パーソナルな質問なのか、インパーソナルな質問なのかがわからなくなる場合があります。

Q. 毎朝朝食を食べるべきですか?

これは、あなた自身が毎朝朝食を食べるべきであるかを尋ねているのか、一般論として毎朝朝食を食べるべきであるかと尋ねているのかがわかりません。

ダブル・バーレル質問

ダブル・バーレル質問とは、一つの質問文の中で複数の質問が含まれている質問のことを指します。

例えば、以下のような例が挙げられます。

Q. あなたは〇〇というアプリの機能やデザインに満足していますか?
  ○満足している
  ○どちらともいえない
  ○満足していない

アプリの機能には満足しているが、デザインには満足していない場合は答えることができません。(答えてもらえない、もしくは、仮に一方に不満があった場合に、どちらで回答するのかが人によって異なります。)

この問題を避けるために以下のように変更例を載せておきます。

Q. あなたは〇〇というアプリの機能に満足していますか?
  ○満足している
  ○どちらともいえない
  ○満足していない
Q. あなたは〇〇というアプリのデザインに満足していますか?
  ○満足している
  ○どちらともいえない
  ○満足していない

もしくは、選択肢を工夫するという方法もあります。

Q. あなたは〇〇というアプリやデザインの機能に満足していますか?
  ○機能もデザインもともに満足している。
  ○機能は満足しているが、デザインはどちらとも言えない。
  ○機能は満足しているが、デザインは満足していない。
  ○デザインは満足しているが、機能はどちらとも言えない。
  ○デザインは満足しているが、機能は満足していない。
  ○機能もデザインもともに満足していない。

下の例の場合、回答者の立場に立った時に一体どれが自分の選びたい答えなのかがわかりにくくなるため、個人的には、上の例の方がいいかと思います。

また、先ほど例として挙げた「毎朝朝食を食べるべきですか?」という質問もダブル・バーレル質問になります。

誘導質問になっていないか

宗教の勧誘などで、よく使われる手が誘導質問だとも聞いたことがあります。さて、例をみてみましょう。

Q. 現在認知症には音楽療法が有効だという認識が広まりつつありますが、音楽療法についてどう思いますか?
  ○有効
  ○無効
  ○わからない

「現在認知症には音楽療法が有効だという認識が広まりつつありますが、」という部分で、有効だと答えさせようとしているのが誘導になっています。
もし、現在認知症には音楽療法が有効だという認識が広まりつつあるという事実を強調した上で、音楽療法についてどう思うかを訪ねたい場合は、何段階かに分けて質問をするべきだと思います。

Q. 音楽療法についてどう思いますか?
  ○有効
  ○無効
  ○わからない
Q. 現在認知症には音楽療法が有効だという認識が広まりつつあるという事実を知っていますか?
  ○知っていた
  ○知らなかった
Q. 再度お尋ねします。音楽療法についてどう思いますか?
  ○有効
  ○無効
  ○わからない

次は、一見誘導質問っぽく感じない例を出したいと思います。

Q. 音楽療法は有効だと思いますか?
  ○有効
  ○無効
  ○わからない

これは質問文に有効だという文字があることによって、質問者が有効だという立場であるということを質問者の意図とは関係なしに感じ取ってしまい、無意識に有効だと答えてしまう人が増えるというものになります。

これに関しては、以下のように修正すべきです。

Q. 音楽療法について、どう思いますか?
  ○有効
  ○無効
  ○わからない

もしくは、影響が出ないように、両方の言葉を置いておくという方法もあります。

Q. 音楽療法は有効だと思いますか? 無効だと思いますか?
  ○有効
  ○無効
  ○わからない

おわりに

今回は、主に質問文の作り方に関しての基本的な注意点をご紹介しました。
次回はアンケート作成において、質問文の作り方以外で大事にしなければならないことを書けたらと思います。

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